柊哉side

 「柊哉、お前にも迷惑をかけたな。いい歳になっても結婚する気配も見せないお前に、見合うような女性を探してやろうと思ったんだ。
 だが、加賀美社長に言われたよ。我々は余計なお節介を焼いたようだと。見合うかどうかなど関係なく、心から想っている女性がいるのだから、それを見守ってやるのが親というものだ、とな」

 「では...」

 「すぐに宮野さんのご両親に挨拶に行きなさい。既に一緒に暮らしていることも伝えていないのだろう?柊哉、そういうことは始める前にきちんと挨拶に行くものだ」

 「わかりました。彼女の母親は亡くなられており、父親は海外赴任中です。すぐには難しいですが、機会を作って頂けるようお願いします」

 「そうか...宮野さん、そうとは知らずに申し訳ない。聞いていると思うが、柊哉の母親も亡くなっている上に、私は今日まで親らしい事などした事がない。
 さっき北条さんからあなたの話を聞いたよ、とても親切にしてもらい感謝していると。心が綺麗で素敵なお嬢さんだとしきりに話していた。
 ...医者という仕事は、一人でやっていくには限界があるんだ。必ず側で支えてくれる存在が必要になる。
 私にこんな事を言う資格もないのは承知だが、柊哉の事宜しく頼みます」

 「こ、こちらこそ、宜しくお願い致します」

 隣で頭を下げる優茉を見ると、少し目が潤んでいた。

 父さんの言葉には、正直俺も驚いている。まさかすんなりと認めてもらえるとは、思っていなかったし、もしも優茉を傷つけるような事をすれば、縁を切る覚悟だった。

 だがこれも、優茉のおかげだな。優茉の人柄ゆえだ。

 そして加賀美社長や北条さんの援護射撃も効いたのだろう。

 以前橘先生に聞いた話は信じられなかったが、この人にも親としての心はあったということか...。
 俺は子供の頃から跡継ぎとしてしか見られていないと思っていた。俺の気持ちなど、考えた事もないのだと。

 しかし、俺も少し父さんの事を勘違いしていたのかもしれない。
 早くに支えてくれる妻を失い、大きな病院を守るため一人必死になって働いてきたのかもしれない。そしてそれは、俺の代まで病院を残すためだったのかもしれない。

 あの頃は無理だったが、大人になった今なら、大切な人ができた今なら少し理解ができる。
 俺も父さんに歩み寄る努力をしていなかった。今までの事は、お互い様だったのかもしれない。