翌日、いつも通りに仕事をしているつもりだったけれど、どうにも気になってしまい少しそわそわとしていたようで...

 「優茉ちゃんどうしたの?今日は何度も時間を確認してるみたいだけど、これから何かあるの?」と天宮さんに不思議そうに尋ねられた。

 無意識のうちに何度も自分の腕時計で時間を確認してしまっていたようだ。

 「あ、いえ。落ち着きがなくてすみません。
 実は...仕事の後、院長室に来るように言われていて」

 「えっ?院長に?それって...香月先生とのことで?」

 「はい。二人で来るようにと言われたそうで...。どうにも気になってしまって」

 「そっか、それは落ち着かないわね。私も結婚の挨拶は緊張したなぁ。向こうは両親も兄弟もみんなお医者さんで、うちはごくごく普通の家庭だから。
 覚悟して行ったけど、案外こっちが思うほど家族はそんな事気にしていなかったの。ただ息子が結婚する事を素直に喜んでくれていたわ。
 確かに香月先生は病院の事もあるけど、でも院長だって息子の幸せを願っているはずよ?親としてね」

 「...そうだと、いいんですけど」

 「優茉ちゃんならきっと大丈夫よ!香月先生にどんと身を任せちゃいなさい!」

 「ふふっ。そうですね」

 天宮さんのおかげで、張り詰めていた物が少し緩んだ気がした。
 その後は落ち着いて仕事が出来て、少し時間は過ぎたものの無事に今日のやる事を終えた。

 着替えを済ませ柊哉さんにメッセージを送ると、ロビーで待っていて欲しいと返事が来た。

 ミモレ丈のベージュのシャツワンピースに、髪の毛はハーフアップに結び直してきたけれど、この服で大丈夫だったかな...?紺色とかグレーとか暗めの色の方が相応しかった?それともスーツを着るべきだったかな...?
 待っている間に色々と気になり始め、ドクンドクンと心臓の鼓動も強さを増していく。

 コツコツと誰もいないロビーに響く靴音に振り返ると、白のハイネックにタイトめなブラックデニム、チャコールグレーのチェスターコートを羽織った柊哉さんがこちらに歩いてくる。
 彼のカジュアルめな服装に、内心少しホッとした。

 「優茉、お疲れ様。待たせてごめん」

 「いえ、柊哉さんこそお疲れ様です。少し寝られましたか?」

 「ありがとう。仮眠は取れたから問題ないよ」

 二人でエレベーターに乗り、院長室のある七階のボタンを押す。上昇する毎に、私の緊張もピークに達していた。

 七階に到着し、口数が少ない私の手を彼が強く握る。

 「優茉、大丈夫だから。深呼吸して?」

 院長室と書かれた扉の前で、柊哉さんは私の目をしっかりと見てそう言う。
 その力強い眼差しに返すように、私もしっかりと彼の瞳を見て頷く。

 二回ほど深呼吸をした後、柊哉さんは握っていた手を離し扉をノックした。

 院長の返事を聞いてから扉を開き、私も覚悟を決めて柊哉さんの後に続いて中へと入った。