「…俺は…、知らないほうがいいことが山ほどあるんだろうな」



波打ち際、水平線を見つめながら寂しそうに一言。

サラサラと揺られる短い毛先ひとつひとつ、私は追いかけるようになぞった。



「でも、知りたいと思う。…ありがとう、ツクモさんのところに連れてきてくれて」



来てよかった───、

そう微笑んだ彼は、本心が半分と、残りの半分は真実を知ることを恐れている顔をしていた。



「あの…、大丈夫です」



昨夜の台風がこうして消えたように。

寄っては返す波が、いつの間にかすべてを残酷に、やさしく戻していくのが人生なのだと思う。



「不安はたくさんあると思いますが…、いつまでも華月苑に居てもらって大丈夫なので…、ですので、安心してください。困ったときは私が力になります。あなたはひとりじゃ、ないです」