「な、なにか食べていきますか?ちょうどお昼ですから」


「…………」


「このあたりは私も来たことがなくて。喫茶店とかあるかな…」


「…………」



険しい表情を、少しだけ、ほんの少しだけ和らげてあげたかったのだけど。

私の力量じゃ足りなすぎる。


透子さんだったら、他の仲居さんだったら、そんなふうに考えたって意味がないのに。



「……ハル様、海がすごく綺麗ですよ」



鼻に通る潮風、寄っては返す波。
降り注いだ太陽、キラキラ輝く水面。

気づけば一緒に堤防を歩いていた。



「…すこし、降りてみてもいいか」



やっと反応が返ってきて、それだけで嬉しくなった私は大きな安堵と一緒に「もちろんです」を返した。


足が砂浜に取られると危ないと言って、先を歩くハル様は手を貸してくれる。


断ったあとのほうが気まずくなりそうで。

落ち着かない心を必死に押さえながら、慣れないご厚意を受け取った。