「…これ…ですか」


「おおん?立派な看板であろうが」


「…そうか。この看板だけは退化しているのか」


「ああん?なんか言ったかの」


「…いえ」



段ボールだった。

そこに細い字で“ツクモ診療所”と書かれてある。


どうにも診療所として動いていた期間はひと昔前のことで、それ以降はずっと研究所としての扱いらしい。


評判の悪いヤブ医者っていうのは本当だったのかな…。



「入り口はそっち。自慢じゃないがワシゃあ組合費を滞納しとる、あまり目立たんでくれ」



顔を見合わせていた私たちに、おじいさんはしわくちゃの細い指でくいっと、裏口を指差す。



「あ、待った」



と、ストップがかかった。



「タダで人様の家に上がるなんぞ、そんな虫のいい話があるか。手土産のひとつでも必要だとは思わんかね」


「これ…、うちの近くで有名な温泉まんじゅうなのですが…」


「ささ、お嬢さん。散乱しておるから気をつけて上がりなさい」


「あ…、はい。お邪魔します」