「…夢ではなかったんだな」


「え…?」



どこかホッとした表情でそう言い、熱く熱く見つめてくる。


あ…、思っていたのと違う…。

私に誰かを重ねているようで、まっすぐ私だけを射抜いてくる瞳。



「よかった…」



噛みしめるような声は、まるで頬を優しく撫でられたみたいだ。


胸がトクリと高鳴る。

こんなにも世の中に嬉しいものがあるのかと、それだけで十分だと満たされるほど。



「昨日、俺は海岸に倒れていたと言っていたけれど。一咲が見つけてくれたのか?」


「…いえ。音也さ……、私の…婚約者が」



惹かれてはいけない。

そのためにも言い切った、絶対的な鎖。


あなたが私のことを偽りなく見るのなら、私は見ないようにする。


たったのそれだけ。



「婚約…者…、それは……許嫁(いいなずけ)ということ…だろうか」



消えそうな声で、はい、と。