ただ、普段は温和な料理長さんがあそこまで感情的になっていた理由はここなのかもしれない。
とんだ戦力を失い、大忙しな朝に現れた大食いチャレンジャー。
「一咲」
昔から、透子さんが改めて私の名前を呼ぶとき。
ただならぬ緊張を感じる。
「あなたもまだ19歳。今まで周りとの関わりを遮断されてきたあなたにとって、近い年頃の青年に惹かれることは仕方のないことよ」
10歳からこの場所で生活し、大人に囲まれたなかで育ってきた。
施設にいたほうが良かった…と、何度も何度も思った最初の頃。
中学も高校も、同年代の子たちと必要以上の関わりは持たないようにと、徹底されてきた。
「だとしてもあなたには婚約者がいて、亡くなったお義姉さまのぶんも跡継ぎとして華月苑の未来を背負っていかなければならない立場なの。…それだけは忘れないようにしなさい」
そんなにも生き生きとしていただろうか。
今日の私は、世話役に何か不安を与えてしまうほどに。