言葉にすることに遠慮して生きていたぶん、あたまのなかで倍を考えてしまう体質。

それは施設にいた頃からで、よく職員はそんな私に気をつかって話しかけにきてくれた。


昔から、もうずっと前から、私は表面に気持ちを表すよりも内側で考えることのほうが多かったような気がする。



「そ、その人のところへ行けと…、ですか…?」



私なりに話を戻すと、透子さんは前髪を留めていたヘアピンを留めなおしながら口を開いた。



「だってどうせ彼、自分の身分も分からないだろうし、ちょうどいいじゃない。そのヤブ医者さんだってお爺様の名前を出せば無料で診察してくれるでしょうし」



従業員であればお爺様のことは「前会長」や「12代目」などと呼ぶため、「お爺様」と呼べる人間は限られている。

そう呼ぶことが許されるのは、花江家の血筋であるものだけ。