だからこそ、まさかだ。

まさか、私の身近にもキーマンになりそうな人物が生息していただなんて。



「きっと自称よ、自称。ずっと怪しいと思ってたのよー」



ヒソヒソと、だれも聞いてはいないだろうけど小声な透子さん。


“亡くなったお爺様”───とは、この旅館の代表取締役社長であり、現在の当主を務める私の義父の、そのまた上の会長を勤めていた義祖父のこと。


肺炎を患って半年前に亡くなったお爺様。


以来、次の会長は義父で間違いないだろうと誰もが予想している。

その後継者である時期当主の候補が、婿として花江家に入る予定の工藤 音也なのだ。


今は残った雑務に追われているが、それについても私たちの結婚をきっかけにすべてがスッキリ片付いてしまうのだろう。



「ちょっと一咲、聞いてるの?もう、またお得意のボーッとする癖!困るから直しなさいっていつも言っているでしょう」