「彼は、そうではないはず…です。カメラとかもありませんでしたし、単純にお腹を空かせていた大食いさんなんじゃないかなって…」
「まあ……、あの感じはそうでしょうね」
口に運んだ第一声は必ず「初めての味だ…」だった。
次に「うまい」と頬をゆるめ、年相応な表情ばかりを見せてくれて。
昨夜よりもまたどこか打ち解けてしまった私は、彼の部屋に向かうことが少しだけ楽しみだった。
「ちなみに今日、お帰りになられるって?」
「……あの、そのことなのですが、」
ちゃんと言わなくちゃ。
いつものようにお客様をお見送りする「いってらっしゃいませ」は、彼からするとかなり酷なことだ。
だからハル様にそれを言うのは、まだ当分は先にしたほうがいいと。
「はあ!?記憶喪失ぅ!?…って、……ええ??」
そりゃあ、こうなる。
私だって昨夜は一晩中、どう説明しようか考えていた。