「……あらあら、ホホホ。たくさん召し上がってくださいね~」
室内にいるお客様は1名様。
グラスも1人ぶん、箸や取り皿も1人ぶん。
どこからどう見ても、8畳一間でくつろぐ1名様なのだ。
クレーマー対応もお手のものである透子さんは、無理難題を言ってくるお客様を納得させる役割としてはピカイチ。
……なのだけど、爽やかな好青年が口いっぱいに頬張る姿にはやっぱり透子さんも母性のほうが先に働いてしまったらしい。
「ずいぶんとお忙しくさせてしまっているようで、申し訳ないです」
「いえいえ~、こんなに綺麗に召し上がっていただいてわたくし共も嬉しい限りでございます。ごゆっくりどうぞ~」
手にした1升のおひつから始まって、料理長さんのプライドを表す料理たち。
ササッと手早く並べてはハル様に笑顔を向け、私には視線で「ちょっと来なさい」と。