これは受話器を耳から遠ざけて会話したほうが得策だ。


料理長さんは私の粗末な力量に対してかなりのご立腹。


だって、好きそうだったから。

どれも美味しいと繰り返していたけれど、そのなかでもあんかけのかかった高野豆腐がいちばん。



「お、お願いします。お料理で満足させるのも料理長さんのお務めかと…」


『………ふんっ!倍を用意してやろう!!』



良い意味でプライドを煽ることができたみたい。

ガチャッと激しく切られて、ふう…と一息。


チラッと視線を移してみれば、「すまない」と苦笑いをしながらも手は止めない1名様。



「とてもお腹が空いていらしたの…ですね」


「俺は基本、漬け物と米さえあれば満足できるのだが。……うますぎて止まらないんだ、本当に」


「……ふふ」



そう言われると嬉しいものだ。

いくつもの小鉢が揃えられた朝食は、華月苑で安らぎのひとときを過ごしてくださったお客様は必ず満足してくれる。