「愛美」



私は愛美ではありません、旦那様。


別館のそのまた奥の離れに、一応はふたりで寝泊まりをしている部屋がある。

忙しい彼が居座っていることはほとんどなく、私のひとり部屋感覚が当たり前。



「愛美、こちらにおいで」


「………はい」



こうしてふたりきりになると、工藤 音也は私を、私としては見てくれない。

私にとって地獄の時間が始まる合図。



「いつも苦労をかけてすまないね。今日もまた一段と大変だったな」


「…そうね」



あるときはネクタイで、またあるときはフェイスタオルやアイマスク。

そんなもので自身の目を隠し、私を引き寄せて甘い言葉。


なんとも不気味な光景だ。
初めてされたときは言葉が出なかった。


そこまでなの……と。

そこまでしなくちゃいけないの、と。