私の説得が効いたのか、少々はにかみながら布団に戻ったハル様。



「なら…少し、話していてくれないか」


「私が、ですか?」


「ああ。きみの声はとても……落ち着くんだ」



この仕事をやっておきながら話すことにそこまで慣れていない、とは、言えない。

なにを話せばいいか躊躇ってしまうのと、相手の反応が気になってしまうから。


けれどお客様に望まれるなら、またそれも私の務め。



「ここは……華月苑という、創業300年以上になる老舗旅館です」



まずはそこから。

温泉の効能や、客室数、うちでお出しする懐石料理の魅力。

北は清流館と南は山林館、特別間のある別館の3部構成となっている屋敷内の説明など。



「かげつえん……、華月館(かげつかん)という名の宿なら俺も聞いたことがある…気が、するな」


「華月館は昭和まで使っていた名前です。私も詳しいところはよく分からないのですが…、平成から華月苑に変わったそうで」


「…………、」