まだどこかの国にはテレビが普及されていない国も……あるのかもしれない。

当たり前のようにしていたけれど、彼が日本人だとも限らない。


顔立ちはアジア系統だとしても、日系とかあるから。


こういうときはどうすればいいんだっけと、私は脳内にあるマニュアルを捲った。



「に、日本語…、おーけい…?」


「……逆に日本語しか話せない」



……かなり、恥ずかしい。

職業柄ある程度の英語は話せるはずが、いろんな意味でとんだ失態。



「あの…、お名前をお伺いしても…?」


「……記憶がない」



どうしてそんなに自信のなさそうな顔をしているんだろう。

まるで私の反応をひとつひとつ試しているみたい。


記憶が……ない、と。


そんな物語を小説で読んだことがある。

とても心地のいいそよ風が吹いていたから、主人公は風を舐めてみた、というプロローグの描写が印象的だった。