押し倒された畳の上。

桶に溜めた氷水が、チャプンと小さな音を立てては跳ねた。


着物のなか、荒い呼吸を繰り返す男の手によってまさぐられる。



「っ、や…っ」



まだ異性に触られたことがなかった。


“正式に籍を入れるまでは”と一応は決めている婚約者でもあるらしいが、そんなもの取って付けた理由に過ぎない。


顔はまったくの別人。

花江家の実娘でもなく、義姉とは血も繋がっていなければ、私は会ったことすらない。


ただ、声が、似ているだけ。


それだけの女のことを抱きたいと思う男など、世の中にいるのだろうか。



「ほら…、一咲ちゃんのせいで僕も我慢できないよ」


「っ…、ゃ……」



声なんか、出なくなってしまえばいいのに。

こういうときには出てくれないのだから。


自分の声が大嫌いだ。

こんな声じゃなければ、ちがう未来があったかもしれない。