だって、忘れてしまいたくなかったから。

なんでもいいから残しておきたかったから。



「この絵を描いたのは……つぼみという子、なんだ」



私が膝をつく地面に、頭上から落ちてくる震える声と涙。



「陸奥 時榛が……心から愛した女性だ」



すべてに切なさが詰まっていた。


彼女はずっと、ずっと、あなたを待っていたの。

その時代は写真も安易に撮れるものではないから、記憶を残す方法なんか限られてくる。


わかるよ。


すごく自信がなかったでしょう。
うまく描けるか不安だったでしょう。

自分が見たまんまの彼を絵に記すことができるかどうか。


だとしても、描かなくちゃだめだった。



「でも、」


「っ…!」



苦しくて切なくて、いとおしい。


声なき声で泣いていた私の腕、ぐいっと引っ張られる。

そして、きつくきつく抱きしめられた。




「九十九 時榛が心から愛した女性は────……きみだ、一咲」




千歳の時を越えたハル様へ、
今日もあなたを愛しています。


どうしても思い付かなかった題名(タイトル)が、ようやく決まりました。