あの研究資料だらけのお家は、意外にも2階は生活スペースが確保されていたらしい。



「俺は向こうでも操縦士を目指していたから。…それと車、運転してみたかったんだ。覚えることばかりで大変だったけれど……俺にしかない特殊な体質に助けられたよ」



免許を取ったのだと。
バスは大型二種免許が必要になる。

この町の地形も覚えて、ナビやスマホも使えるようになったと。

服も自分で買っているのだろう。


九十九という姓を貰った彼は、しっかりとこの時代で生きていた。



「きみは…、元気だった?」



ようやく振り向いてくれる。

いつも優しく微笑んで、芯の通った強さを持っていたひと。


それが初めて、私のほうが強いんじゃないかと思った。


振り返ってくれたことで、彼がずっと隠していた作品が私にも見えた。



「………っ、」



そこは、そこには。

どうしてその絵が飾られているのと、頭をこんがらせる1枚があった。


だって、その絵……。


私があの日、海でお別れをしたあなたに渡したものだ。