「今後の華月苑は俺と透子さんを筆頭に動いていく。彼女は一咲と違って何事もそつなくこなせる。だいたい一咲はお客様とのコミュニケーションからなっていないんだ。まだアイのほうが───」
「や、やめてあげてください旦那さま…っ!一咲さんのライフはゼロです……!」
ゼロどころかマイナスだ。
だってクビって、クビって……。
あれでも私なりに精いっぱい働いていたのだ。
たしかに仕事は遅いし、判断力も鈍くてみんなに迷惑かけてばかりだったけれど…。
掃き掃除とか拭き掃除とか、そういうものは誰よりも丁寧にやっていた自信がある。
「だから一咲には、大食いで足が速くて力持ちな……そんな変わった男と笑い合っているほうが似合うと思う」
……え……?
地面に落ちきっていた顔が、上がる。
手紙を読んでいるのは義父だけれど、私の視線はその隣に立っている彼へと。
「────どうか、しあわせに」
首に巻かれたストールは私がプレゼントしたもの。
そんな義兄─工藤 音也─の、声が聞こえた。