この距離で初めて、口周りの青髭が目立つことを知った。

そのわりには薄い髪を必死に寄せては隠しているのだと、知った。


それくらい、それくらい私はあなたのことをそんなふうな目で見ていなかったのだ。



「あ、あの…、今日は忙しいので…厨房、厨房に…っ」


「もう支配人と経験はしたのかい?いいや、この感じは処女じゃないか?そうだろう?」


「…ひ、」



このままでは危ないと、本能が危険信号を出している。

にも関わらず全身が硬直したように動かないのだからどうしようもない。


高熱を出して眠っている病人を横に、彼はいったいどんな気を起こそうとしているんだろう。


大声を出したならば眠っている青年を起こしてしまう。

そんな心配は必要なく、私の声はやっぱり出ないのだ。



「ゃ…、め……っ」


「どうやら支配人には声を気に入られているんだって?ああ…、どんなふうに啼くのか想像するだけでたまんないよお」