「おいで、ナナシちゃ───わっ!」
キャリーケースを開けて私が抱こうとすれば。
ぴょんっと、子猫はベッドに身体を起こす音也様の腕のなかへ。
これで……いいんですよね。
ハル様、あなたの頼みは叶えました。
「音也…さま…」
ポタリ、ポタリと。
やわらかな毛並みに涙がひとつひとつ落ちてゆく。
ぎゅうっと、子猫を抱く腕。
その涙をペロリと舐める、子猫。
まるで「泣かないで」と、言っているよう。
もしかするとその子猫はずっと前から、この人の涙の拭い方を知っていたんじゃないか。
スリスリ頬を寄せて、やさしく鳴く。
「……?」
すると彼はそばに置いてあった電子パッドを手にする。
書いてはボタンひとつで消すことができる、電子パッド。
なにを書いているんだろう。
今まであまり活用しようとしなかった音也様は、そこに何を。