「一咲、本当に大丈夫なの…?」


「はい。今日だけはと、先生の許可も取ってありますので…」



手術は無事に成功。

大きな代償を払って、彼は自分の声帯を全摘出した。


駆けつけた透子さんを呼んだのは私。


そして、透子さんの手に抱かれたキャリーケースのなかにある命も一緒に。



「音也様」



よく晴れた空を、いつも眺めている。

私の声を聞くと、首に包帯を巻いた彼は穏やかに振り返った。



「本当に…、よかった…っ」



透子さんは彼の手を握り、声を震わす。


諦めて死を待つだけだった彼が、生きることを選択してくれたことがどれだけ嬉しいことか。

従業員たちも手術が成功したと聞いて、皆して涙を流していた。



“ナナシ”



小さく口を動かした彼が、私が抱えたキャリーケースを見つめる。

ミャアミャアと、また身体が大きくなった子猫は変わらず鳴いていた。