答えられない。

やさしいのは、私に対してじゃないから。


私が受けている愛情は偽物なのだから、つい踏み込まれると言葉に詰まる。



「一咲ちゃん」



聞き慣れない呼び方に違和感を覚えてすぐ、きゃっと、思わず小さな声が出た。

いつの間に回り込んでいたのか、私の腕を取っては身を乗り出してくる中年男。



「な、なにを……しているの、ですか」


「イイと思ってたんだよなあ、ずっと。若いし物知らずで、外の世界をまったく知らない子。最高じゃないかって、ねえ」



彼が華月苑の一員となったのは先月のこと。


隣町の高級料亭で腕を磨いた職人が、まさかの調理スタッフ希望として面接に来てくださって。

それはもう人事部たちは即決だった。


もう少し吟味するべきだったと後悔したのは、いまの私。