どうしたらいいのか、わからない。

わからないから、目の前のことひとつを解決させることに全力を注ぐしかできないの。


大嫌いだった。
私の声をなくしてきた、あの人なんて。


でも、でも、あの人─音也様─を孤独なまま死なせるわけにはいかない。


うまくできないの。

うまく喋れない、気持ちを伝えられない、本当は、ほんとうはね。


あなたとずっと一緒にいたい───…。



「…ひとつ、俺から頼みたいことがあるんだけれど」



うっ、うっ、と。

抑えよう抑えようと思っても出てしまう声を聞いて、やさしく肩に手が回された。



「この先、工藤にとても辛いことがあったとき……、ナナシに会わせてやって欲しい」



頼める?と、耳元にも広がった優しさ。


出会った頃より伸びている髪。

誰かに涙を見せることができなかった私が、こんなにも見せることができたひと。



「これがきみの幸せなら、そこにきみの笑顔があるなら……俺はそれでいい」



ハル様、ハルさま。



「……これだけは、すまない」



長くて短すぎる柔らかさに最後の唇を奪われて、私は折り畳んだA4サイズ1枚を彼に渡した。