ああもう、どうして。
どうしてどうしてどうして。

震えないように、ふるえないように。


私にとっていちばん言いたくない言葉を言って、いちばん彼を傷つける言葉を並べればいいだけ。



「守っていくって…、いま大変な状況なのは俺も知っているけれど、一咲はずっと華月苑にいるつもりなのか」



うなずけばいいだけ。

そんな簡単なことが、どうしてこんなにも難しいんだろう。



「俺のような男は、あの旅館にとって、きみにとって……迷惑ということか…?」


「………、」


「俺のことが、嫌い?」


「…っ」



はい───、

小さく小さく答えてしまった。


私が華月苑を選べば、上の立場になることができる。

選べる立場になるために私はこの道を選んだ。

選べる立場になって、私は音也様と透子さんにあの旅館を渡すの。


ハル様が自分の道を決めたことは、とても今の私にとって好都合でタイミングが良かった。