おなじ世界に居てくれる。

そのほんの小さな“きっかけ”のようなものになれていたのなら、私はそれだけで幸せだ。



「ツクモさんと出会ったこともまた運命のような必然だと思うんだ。だから俺はその必然に、甘えてみてもいいんじゃないかって」


「…いい、です、いいに決まってます」


「…うん。ありがとう」



握られるたびに温かい手だなと、思う。

すっぽり私の手を包み込んでしまう。


………また、こうしなきゃダメなの。

したくないしたくないと願いながら、しなくちゃダメになる。



「一咲…?」



握ってくれていた手を、離す。

戸惑う声は波に消されちゃったと聞こえないふりをして、ぎゅっと胸の前で握ったこぶし。



「じつは一咲と一緒に行きたい場所があって、」


「もう、華月苑を出て行ってください」


「…え?」


「…やっぱり華月苑にとってハル様は少し変わりすぎているので……、この旅館を私は守っていかなくてはいけないんです」