「よし、入ろう」



私のワガママを聞き入れてくれてしまう。


パシャパシャと、わざとらしく音を跳ねさせてみたりして。

思った以上に水しぶきが飛んで、「やったな」という顔をされる。



「きゃっ」


「ははっ、つめたいだろ」



頬にまで飛んだ海水。

ぐいっと拭って見上げると、すぐ近くに迫ってきた影とひとつになる。


この潮風にとうとう冷めてしまいそうな熱。



「…一咲、もっと抱きしめたい」


「……外…、なので」


「我慢できないと言ったら?」


「…我慢してください…と、言います」


「……ふっ」



ちゅっと、軽く合わさって離れた。


堤防にぽつんぽつんと佇む常夜灯で良かった。

その光はここから遠い。
今宵は三日月で、そこにも助けられた。



「あの先は、また同じような1本線が広がっているんだ」


「…そこまで行ったこと、あるんですか?」


「…ああ。1度だけ大きな軍事演習があったときに」