私は、この旅館の代表取締役社長である人間の養子。
そして支配人を務めている男の妻となる女。
身分としては十二分に羨まれる立場で、養子に引き取られてからも大切に育てられてきた自覚だってある。
おとぎ話のシンデレラとはまた少し違うのが私だ。
「慣れないことばかりなんじゃないかい?ほら、今日も透子さんに強く言われていたからね」
たしかに一般従業員と比べて透子さんからの当たりは強いけれど、それは“当主を支える立派な妻にするため”という教育も含んでいるから。
こうして気にかけてくれる人間は陰ながらにもいるのだから、私は大丈夫なの。
「ご心配…ありがとうございます。たしかに音也様はお忙しい方ですし、難しいところはありますが…、やさしいひとです」
「やさしい?どんな感じに?」
「ど、どんな感じ……と、言われましても…」