「一咲」


「……透子さん」



別館の縁側。

ここもここで、なにか考え事をする際には抜擢となる場所だった。


恐ろしいほど静かなのだ。


カコンと音を鳴らすししおどしがある程度で、物足りないと思うことがまた気分を落ち着かせてくれる。



「これからはあなたが華月苑を引っ張っていくのよ」


「……音也様は…、まだ治らないと決まったわけではありません」


「…そうだけれど」



みんな疲れた顔だ。

接客業らしからぬ顔に、渇を入れる人間さえいない。



「一咲、あなたは確かに孤児院で育って、勝手にここに連れられて、勝手に華月苑の未来を背負わせられていたかもしれない。我慢ばかりで嫌になることばかりでしょう」


「………はい」


「でもね、それはあたしたちはみんな同じなのよ」



生まれた場所は関係がない、と言うけれど。

関係があるパターンだって絶対ある。