「結局はこうなって…、俺はどちらにとっても……用ナシだ」



この人が欲しかったものは………愛。

無償の、限りのない、愛。



「やっと愛美に会えるのかと思ったら…、それで……いい」



その言葉を言ったということは。

死の先に彼女がいることを理解している、ということは。



「…わかってるよ。おまえは…愛美じゃない。愛美はもう……いない」



この人は義姉を失ったときで時間が止まっているんだと。

一回り年上の彼が、初めて近い人間に思えた。

ここまで会話が成り立っていると感じられたことだって。



「本当にそれで…いいのですか」


「……俺にとって華月苑は、実家より温かい場所…だった。けど…、声が出なくなる俺なんか、迷惑をかけるだけだ」



どうにも、私には別の婿を取るようにと、音也さんはすでに私の義父へと伝えてあるらしい。

死ぬ準備を彼は着々としている。



「今まで……悪かった。ナナシと、仲良くな」



だったらどうして。

私を追い返すように病室から出させる寸前、小さくそう言ったの。