「声を失ったら…、生きていけない。それで生きているなんて、言えないだろ……、だったらもう……死んだほうがマシだ」


「…みんな、悲しみます。華月苑のみんな…、音也様にいなくなられたら困ります」


「そう、それだけ…なんだよ…、俺という男に残ってるものなんか…」



じゃあ、あなたは何が欲しかったのですか。

本当は、なにを手に入れたかったのですか。



「どうせ…、俺なんかは実家にも歓迎されないから……花江家に飛ばされたってのもあるんだよ」



この人の家庭事情を私はよく知らなかった。
教えられなかった、というほうが正しい。

ピシッと着こなしたスーツや、多少のアクシデントも乗り越えることができる要領の良さ。


その裏にある孤独に唯一近づけたのが、きっと彼女だったんだろう。


あなたの心に温かな優しさを与えたのが、愛美さんだったんでしょう。