「こっちのことはあたしたちに任せてくれて大丈夫だから。あなたは婚約者として、できるだけ支配人のそばにいてあげて」


「…でも、」


「一咲。…あの人にも、あなたしかいないのよ」



ここでそんなことを言ってくるだなんて。

透子さん、それはちょっとズルいです。


ここで私が自分の気持ちに正直に生きたいと焦がれたならば、“癌になった婚約者を捨てる”と変換されてしまいそうだ。


選択肢……、もっともっと狭まった。



「……音也、さま」


「…ああ、荷物…か」


「…はい」



それから彼の荷物をまとめて病院へと向かえば、窓の外をぼうっと見つめていた婚約者がゆっくりと振り返った。


弱ってしまっている。

顔色が最後に見たときよりも悪く、声が想像以上にガラガラだった。


あの夜以来だ、こうして顔を合わせるのは。