「喉頭(こうとう)がんで…、かなり危ない状態みたいなの」
「あ、危ないって…」
「手術して取り除けば問題はないみたいなのだけど、本人は“しない”って…、しなかった場合は全身のリンパに回って……」
透子さんの言えなかった言葉の先は、聞かなくても分かることだった。
私にとって彼は、嫌なひと。
いないほうがいいと思わせてくるひと。
けれど、それをイコールで死に繋げることはできない。
そう願うことも、できない。
たとえ彼は私に対してそう思っていたとしても。
「どうして“しない”と言っているんですか…?手術をして取り除けば、治るんですよね…?」
「……そのためには摘出するのよ」
「摘出…?」
「…そう。声帯をね、全摘出しなくちゃいけないらしいの」
それは、喋ることができなくなる。
口から音を出すことができなくなる。
私が何度も何度も自分に対して願っていたことが、まさか音也様のほうにいくなんて。