礼儀や作法に重んじて育てられたものの、家事のなかでいちばんの苦手は料理だった。


ここは古くから伝わる温泉宿。

昔から残り物や賄(まかな)いを頂いてきたこともあり、私の得意分野は掃除だった。


だって自分のペースで淡々とこなせばいいだけだから。



「だいぶ落ち着いてきてはいますが…、また上がるかもしれないです」


「そうか。これ、薬も用意したからね」


「…ありがとうございます」



お粥というよりは、ショウガの効いた雑炊だろうか。

ふんわり鼻をくすぐる香りは、そういえば私も今日はお昼を食べていないことを思い出させた。



「いろいろ大丈夫かい?」


「はい。看病くらいなら、私にもできますので…」


「そうじゃなくって。…支配人との生活のほうだよ」



虐げられているとか、ぞんざいに扱われているとか。

そうではないところが、私にとっては恵まれていることなのだと思うようにしていた。