「わたしがっ、私が代わりに死ねばよかったって…っ」



悲しかった。


彼からの扱いには慣れたものだったが、実際に言葉ではっきり言われてしまった苦しみは非じゃなかった。

きっとそれは私が自分のなかで今まで思ってきた気持ちだったんだろう。


愛美じゃなく、一咲がいなくなればよかったんだって。


────今日は愛美の命日ではあるけれど、一咲の誕生日でもあったのです。



「一咲」



このひとは目隠しなんか、しない。

なんの邪魔もなく、ただ私だけを。



「かずさ」



呼ばれると、それ以上の涙がこぼれ落ちる。


髪に額にまぶたに、頬に、指先に、唇に、涙に。

ぜんぶぜんぶを可愛がってくれているんだと、偽りのない愛をひとつずつ。


まるで誰にも祝福されなかった誕生日に、おめでとうが渡されたみたい。



「…帰したくないな」



たぶん私は、こう言ったの。

「帰りたくない」って。