「音也さん」



だったら。

だったら私だってやりきろう。
なりきってやろう、愛美に。


そっと目の前の頬に手を伸ばして、撫でる。



「音也さん、私はもう……いないのよ」


「…いない…?」


「そう。…だから私のことをいつまでも想うのは、もうおしまいよ」


「っ、いやだ、どうしてそんなことを言うんだよ愛美」



完全に騙されてくれている。
騙すことができている。

喜ぶことだ、喜ばしいことだ。


ここにいるのは私じゃない。

今からこの人に抱かれようとしている女は、私ではない。



「私の……義妹の、一咲がいたでしょう?」


「……かず、さ?」


「そう。花江家が養子として引き取った…、大人しくて静かで、とても……ばかな子」


「はは。姉のくせに、そんなことを言っていいのか」



消えていく。

声だけでなく、私という存在までもが。