しっかり繋がれた私たちの手。
そんなものを見て、彼は私に「本当にそれでいいのか」と、眼差しで言ってくる。
私に選択肢なんか、ないの。
あなたと話せるだけで幸せを感じられる、せめてそれくらいじゃないとダメなの。
「お、おかえりなさいませ…!支配人」
「明日の朝、俺と一咲は少し出勤が遅れる。頼んだ」
「…かしこまりました」
それだけを透子さんに伝えて、向かうは別館の離れ。
婚姻するまでは、と、強めなルールを自分で作っていた人が。
なにをするにしても「正式に籍を入れるまでは」と、豪語していた人が。
とうとう心の虚無を、べつの女の身体で埋めようとしている。
「ま───」
“待て”と、言いかけたのだろう。
なにかを感じ取ってしまったハル様は、咄嗟に。
しかしそれ前に音也様の動きを止めたのは、足元に触れた小さな小さな温もりだった。