「愛美だったらこんなことサラッとやり遂げてしまえるんだがな、一咲」


「……この方のことは、私にお任せください」


「ふむ。よろしく」



価値はない。

彼女にならなければ私の価値などないという、それは脅しだった。


このままでいいの?

こんな人と愛のない結婚をして、愛のない家族を作って、愛のない死を迎えていく。


私の人生……本当にそれで、いいの?



「さっきよりはまた下がったかな…」



空いていた奥の一室へと無事に運び終わったあとは、さっそく布団の上に寝かせる。


熱を持っていた額(ひたい)に冷やしたタオルを乗せ、何度か汗を拭ってやると、思ったより早く顔色は戻った。


海岸脇に倒れていたということは、海から流れてきたということだろうか。

この荒れた天気のなか、大きな波を打つ海から…?


もしかして……命を絶とうとした、とか。