「…帰りましょう、音也様」
チチチチチと、ひぐらしの鳴き声が後押しをしてくれた。
私だけの声だったのなら、きっと背を向ける彼はどうしようもない男に変わる。
彼女が亡くなってから2年後に花江家に引き取られた私にとって、愛美さんのお墓は他人のお墓だった。
「………一咲、今日は俺といっしょに寝てくれ」
いつも一緒に寝ています。
和モダンなベッドがふたつ揃えられた一室で。
ドクン、ドクン、ドクン。
こんなにも動悸がはっきりと聞こえてしまうのは、「おなじベッドで」という意味を理解してしまったからだ。
「…音也様、最近は体調が優れていないのではないですか」
「……ああ、声か。熱があるとかではないから平気だ」
すこし前からしゃがれた掠れ声をしている。
従業員たちも気になっているみたいで、休養を催促しているが本人は「大丈夫だ」の一点張りだった。