「……名前は?」
「まだ決まっておりません」
「…ナナシ。俺に媚を売るなんて、いい度胸じゃないか」
あの人もあんな顔をするんだ……。
どんなに歩いても歩くぶんだけ一生懸命に追いかけてくる子猫と、わりと楽しんでいるようにも見える。
「この旅館にとって害悪になるなら、俺は容赦しないぞ」
害悪だなんて。
ぜったいそんなことにはならないだろうし、もう少し優しい言い方をして欲しい…。
そんななか誰かが「華月苑の招き猫になってくれるかもしれませんよ」と言ったことで、無事にここでお世話することとなった2人(?)目。
名前は今のところ決まっていないので、とりあえずはナナシちゃんでいこうと。
気が散ってくれたらいい。
ナナシちゃんには申し訳ないけれど、工藤 音也の私に向ける目が少しでもナナシちゃんに向いてくれさえすれば。