彼には安心してこの旅館を託すことができるだろう。

この創業300年という歴史ある老舗旅館を、血族者ではない彼に譲り渡せてしまうほどの信頼度なのだ。



「ですが……支配人」



あの子、やっぱり外に帰すことになるのかな…。

先ほどまでの温かだった雰囲気がガラリと変わってしまってみんなが不安を感じていた矢先、ひとりのスタッフはよそよそしくも続けた。



「かなり支配人に…懐いてしまっているようです」


「……………」



思わず私たちもひょこっと、目を向けてみる。


そこには支配人の革靴にスリスリと頬を寄せ、支配人が歩くたびに後ろをちょこちょこおぼつかない足取りで追いかける子猫の姿があった。


とくに彼が子猫を抱き上げたわけでも、撫でたわけでもないというのに。

むしろしっしっと追い払っている側だった。


もし母猫と間違えているのだとすれば……あの子は間違えすぎている。