「このあと当旅館オリジナルのアイスクリームもお持ちいたしますので、ごゆっくりお楽しみくださいませ」



襖をゆっくりと閉める。

その先から聞こえる親子の声に、心温まる安らぎを私も感じた。



「なんとか今日も乗りきった…」



慌ただしい厨房と、仲居たちが行き来する廊下。

その忙しさをお客様がくつろぐ客室に持ち込むことだけはご法度。


一段落した頃、ライトアップされた庭園に出て、夜風に冷めない胸をぎゅっと押さえた。


思い出すだけで熱を帯びる唇に、忍やかに触れる。



「かずさー?まったくあの子ってば、またどこでボーッとしてるんだか!」



透子さんの声にすら緊張してしまうのは、だれにも言えない秘密ができてしまったからだ。


婚約者ではない男性とキスをしてしまった───、


そんな、秘密が。