いったんは休憩室にて眠る遭難者の身体を拭き、浴衣を着せる。
もちろん男性従業員にそれは任せて、落ち着いた頃。
「俺はこのあと吉野様の接待に回るから、一咲。彼のことを頼んだぞ」
と、支配人兼、婚約者でもある男は私を見つめてきた。
「…私は、どうすれば、」
「かなりの熱がある。さすがにこの状態と天気じゃあ病院にも連れて行けそうにない。空き部屋はあるだろ?今夜はそこに運んで、看病してやってくれよ」
熱って、看病って…。
見ず知らずの男性をこんなにも気安く運んでしまっていいのだろうか。
ただ、この大荒れた天候。
病院に行くことが厳しければ、医者を呼ぶことも難しいと。
今日はいつも以上に旅館内も忙しい日なのだから、厨房も仲居も、揃った人数で切り盛りしなくてはいけない。
わかってはいるが、私ひとりで…?と躊躇っていると、意味深い眼差しを送ってきた婚約者。