ただ、見ているだけでも十分だと思わせてくるのが彼女だった。



『もっとこう…あるだろ?手を繋ぎたいだとか抱きしめたいだとか、気持ちをさっさと伝えてしまいたいだとか!』



あるさ、そりゃあ。
見ているだけで十分、にも限りがある。

朗らかな笑顔を見ると俺だけに向けて欲しいと思うし、触れてみたいとも。


俺はいつだって、そんな自分のもどかしさと戦っていた。



『…大事にしたいんだ。……だいじに、したい』



第一、俺は兵士を夢みている男だ。

いつ敵国との戦に出向き、国のために戦うか分からない。


あの子を泣かせることだけはしたくない。


そして俺の家柄もあり、じつは縁談も幾つか上がってはいた。

『今は学業に専念したい』と言ってやんわり断ってはいるが、海軍兵学校を卒業したら顔を合わせることにもなるだろう。