『─────……』



そして彼女は、笑った。

両手を口元に持っていき、声なき笑顔で、笑ったのだ。


ふふっと、俺にだけは聞こえてくる。


淡くて優しい、小さな鈴が転がるような、万華鏡がコロンと動くような。



『俺は時榛。…字は、こう書くんだ』


“とき、はる…さま”


『少し長いよな。“ハル”、とかは…どうだろう』


”……ハル様“


『…うん。……つぼみ』



それから俺は、彼女に会いにいくために病院へ足を運んだ。

友の見舞いは口実で、ついでで、逆に彼女を見つけられなかった日は落ち込む。


“つぼみ”という名前だと、知った。


彼女の好きなことは絵を描くことだと、知った。



“いってらっしゃいませ、ハル様”



きみはいつも、病院の前で俺を見送ってくれる。

俺の姿が見えなくなるまでずっと。


俺は『また来る』と言って、きみは必ず嬉しそうにうなずくんだ。