『…話せないらしいんだよ、あの子』
『え?』
『ここの先生の親戚?って言ってたかな。どうも、声が出ない子みたいでさ。ああやって下働きで雇ってもらっているらしいんだ』
伊作が言うには、彼女は生まれたときから声が出ない病気なのだと。
歳は17歳。
病気のこともあって女学校に通えないため、親戚がいるこの病院で働いているらしい。
どうせ看護婦から知り得た情報でしかないはずが、まるでそいつは自分の知り合いかのような口振りで説明してくる。
『えっ、ちょっ、おい時榛…!』
止めに入った伊作の手を振りほどいて、俺は彼女に近づいた。
話してみたかった。
どんな子だろうと知ってみたくなった。
単純に、まずはそんな理由だけで。
『きみに包帯を巻いてもらいたいんだが、頼めるかな?』
トントンと、力加減に気をつけながらも少女の肩を叩く。
耳は聞こえていると言っていたが、いきなり声をかけて驚かせたくはなかった。