パッと見るかぎりは今にも歩き出しそうな伊作だったが、左足はきつく巻かれた包帯でしっかりと固定されていた。
静かな病院内。
伊作はサラッと俺の自己紹介までしてくれてしまったから、とりあえずは同年代ほどだろう看護婦に軽く頭を下げておく。
『こいつは俺の次に成績がいい奴ね』
『そうなんですか!陸奥さんもいずれは海軍兵に?』
『…まあ、はい』
『まあ!すごい!ご兄弟はいらっしゃるの?』
その反応ができるなら伊作のときにもしてやってくれないか…と、内心つぶやく。
これ以上話していたら隣の友人の機嫌を損なわせそうで、俺はすぐに男だけの空気を作った。
『おまえって奴はさあ…、ほんっとーに恨めないよなあ…』
女が去ってゆくと、窓の外に揺られる新緑の葉を見つめて唇を尖らせた伊作。