きみは、声を出すことができない女の子だった。



『大丈夫だって時榛っ、俺はなんともないって言っているじゃないか!』


『いいから掴まってろ。たぶん骨折れてるぞ』


『折れてないって!───あだだだだっ!!今おまえわざとやったろ!?』


『…ほらな』



海軍兵学校の訓練で大怪我をした友人。

先生に頼まれた俺は、近くに隣接されている海軍病院へと伊作を運んでいた。


それは今年卒業となる年の───20歳のこと。



『骨折だね』


『なっ、冗談じゃあないぞッ!!』



診察室にて。

医者の診断に、伊作は不服たる声を上げる。



『冗談なんか言うものかい。完全に骨がポキッといってるよ』


『そんなの…、触っただけで分かるわけ…っ』


『私はこの道40年だよ』



彼は名医だと有名な先生だった。

うっと押し黙った伊作。
膝の上で震える、ぐっと握られたこぶし。