怪我をした伊作の同行で、俺はその病院に行った。

そこで初めて出会ったんだ───明治の俺たちは。


いつも静かに掃除や備品の整理をしている子、きみの最初の印象はそんなものだった。



「どこか…、懐かしい感じもします」



写真のなかで真顔で敬礼する俺をそっと撫でてから。

「あ、お茶を淹れなくちゃ」と、可愛らしくつぶやいた。




「一咲、俺と一緒にここを出ようか」




あ、茶柱が立った。

きっと彼女はそんなものを俺に知らせてくれようとしたのだろう。


朗らかに向けてくれていた表情が、ピタリと止まった。


しばらくの沈黙。
そして小さな唇を開き、首を横に振った。



「私は……華月苑の跡継ぎとして、生きなくてはならない人間です」



それは、身分ない俺など興味もないということか。

どんなに明治で真っ当な生を生きていようが、この時代ではそんなもの何も関係がないと。


この立派な宿で、由緒ある名家の娘としてのほうが、きみの人生にとっては確かに良いものなのかもしれない。