『つぼみ。また掃除を頼まれているのか?まったく…、雑用ばかり押し付けるなって俺が言ってこよう』



身ぶり手振り。
パクパクと動かす口からは、音は出ない。

けれど俺の心にはいつだってきみの声が聞こえていた。



“いいの。お掃除、すきなんです”



緊張して強ばったとき、胸の前で手を握る。

嬉しくて笑うとき、口元に両手を持っていってクスクスと控えめに響かせる。


絵が好きで、人物画ではなく風景画ばかりをいつも描いていた。



“いってらっしゃいませ、ハル様”



俺はそんなきみに惚れていた。



「……一咲」



待ってくれていたのだろうか。

華月苑の門の前、そわそわと立ちすくむ影へと俺は声をかける。


ひかえめに笑ったそれだけが、俺の心をときめかせた。



「…おかえりなさいませ、ハル様」



客の出迎えが終わり、今はどの部屋もゆったりとくつろぐ時間帯だ。

雨上がりの空には西日が射しかかっていた。